「クピドの悪戯」

クピドの悪戯―虹玉 (1) (ヤングサンデーコミックス)

板金工で21歳童貞の睦月、アソコから7色の玉を出し終えると、二度と射精が出来なくなる病気・虹玉<にじだま>にかかってしまう。なぜオレが?
突きつけられた現実が睦月を苦しめる。
恋心を抱く事務員・大倉怜子とくされ縁の桐生麻美、ふたりの異なる境遇の美女に挟まれ、睦月は幸せをつかめるのか?

というようなお話です。
19歳の怜子ちゃん(かわいい・ピュア・黒髪ストレートロング・処女・巨乳)と赤面モノの恋愛階段登りつつも、失敗しちゃった時や傷ついちゃった時には同い年21歳の桐生(美人・明るい・大人・人あしらい&料理上手・感度良い)に慰められたり励まされちゃって、ンもう!まいっちんぐ!なお話かと思いきや、後半からは一気に主人公の恋愛を通しての苦悩と成長を描く物語に転じて行きます。
えーと、何は無くともエロいです。怜子ちゃんとのお泊りのシーンでは、1巻のうちの7割くらいがセックス描写に使われてたりする。しかもその描写がまた、エロ漫画みたいなある種記号的なエロさじゃなくて、リアルにエロい。女の子のトロンとした感じや、たまにちょっとSっぽく攻める表情なんかは言うまでも無く、ワイヤー入りブラに下から挑んじゃって手が突っ込めないとか、「フトン汚れてないですか?」っつって腰に何か敷こうとしたり、ガンガンやっちゃったせいで上にズレてって縁で頭打っちゃうとか、細かくリアルでエロいので勘弁してください。私、エロ漫画的なエロさには耐久性がある(真顔で読める)んですけど、こういうのはちょっとどんな顔していいかわかんないの…!笑えよ…!
射精の時に七色の玉が飛び出す、っていうこれ以上無くマヌケな虹玉の設定は、「本当に好きな人とセックス&結婚したい」っていう主人公のある種ドリームな考えを切実なものにする物として、結構効果的に使われてるんじゃないかと思います。
【以下はネタバレ含むので畳みます】
そんでまあ、手探りの恋愛を進めて怜子ちゃんとのラブ&セックスをゲットして浮かれまくってた主人公に、恐怖の「アレが来ないの…」がやって来るわけですが、元々「処女と童貞同士で結婚したい」っていう価値観を持ってた事と、虹玉で自分のセックス回数に限りがあるせいで、お互いの愛情以外にも怜子ちゃんを繋ぎ止めるためのものを欲してた主人公は、「セックスできなくなっても、子供がその2人を繋ぐ「約束」になるんじゃないか」って考えて腹を括るわけです。
今まで何も考えずただ親の会社を手伝っていただけだったのが、将来の事を考えて銀行からの融資を頼んで新型機械を導入したり、PCでソフトの勉強をしたり、そうしてやっと固まったところで怜子ちゃんに「結婚しよう」って花束渡したものの、怜子ちゃんが欲しかったのはそういうものじゃなくて、毎日毎日つのって行く不安感を一緒に共有してくれる事だった、っていう。主人公は、怜子ちゃんの「どう思ってる?・どうしたい?」をきちんと確かめる事無く、ある意味自分のためだけ(怜子ちゃんと一緒に居たい願望を満たすためだけ)に突っ走ってたわけですからね。
相手は何も言ってくれないし今日も生理は来ないし男は逃げられるけど女はどうやっても逃げられないし…ってグルグルして、友達に頼んでやっと妊娠検査薬買って貰って、でも間の悪い事にそれが親に見つかっちゃって超怒られて―なんて事が19歳の女の子に降りかかってきたら、そりゃ「あらためて作ればいいよ」なんて言う男は受け入れられないし、「(セックス)するんじゃなかった」って言っちゃいますよ…。
でもこっちとしては主人公の頑張りとか覚悟とか主人公のお父さんの思いみたいなものもずっと見てて、その絶望にも共感出来るし…!っていう。
それを踏まえての数ヵ月後、怜子との再会のシーンでは、虹玉の事・自分に生殖のチャンスがほとんど残されていない事を打ち明けて(て言うかこの時点まで打ち明けて無かったって事にも主人公の問題がありますよね)、その上で「(怜子ちゃんに)覚悟を押し付ける事は出来ない」って言って、怜子ちゃんの立場にも理解を示す主人公には、ちゃんと成長を感じられて良かったです。最後の虹玉に関するオチも。
そんでここからは各ヒロインに関する感想。

  • 大倉怜子

気持ちを伝えた後、真っ赤になってベッドに顔突っ伏して「きっと今晩、フトンに入ってから思い出し絶叫しちゃいます」なんて言ったかと思えば、妙にグイグイ押して来るところもあって、控え目なのかと思いきや「なぜトモくんって呼ぶのを選んだか…わかる?」「この前の女がむっちゃんて呼んでたから、それだけは絶対嫌だったんです」って対抗心も見せて来る。初デートでキスどころかそれなりにノって胸まで舐めさせてくれるのに、パンツを脱がされそうになると怖くて泣き出す。この、ピュアさと積極性と引きポイントの妙な混在ぶりは「処女ですね」の一言に集約されそうな気がします。恋愛やセックスについて、若干頭でっかちになってる処女。
いわゆる、男心を刺激するような「上手い」言動(思い出し絶叫とか)は、怜子ちゃんが恋に恋しているが故にちょっと過剰になってる部分なんだと思うんですよね。無防備になってる、っていう方が近いか。力の出し加減分かってないみたいな。無意識での演技過剰。自分の中のときめき世界が自分から溢れ出て1.5倍くらいになってその膜が自分を覆っちゃってる感じ。多分、セックスの時に「変になっちゃう…」とか「壊れちゃう…」とかも言うと思います。そういうのを演技じゃなく言っちゃうのが怜子ちゃん(処女)。
普通、生乳まで許しておいていざ相手が本気になると「怖い」って言ったり、キスして「もっとたくさんしてください」ってねだった上に自分から足からませてきておいて「そのつもりはなかった」なんて、通じるかこの野郎!って話なんですけど、レディコミまがいの少女漫画を読む程度にセックスに興味と幻想を抱いてる19歳処女なら有り得ると思うんですよね…。まだセックスもしてない相手に、将来を臭わせるような事ポロっと言っちゃったり。(相手である主人公も童貞が故にそれを信じてしまうのが間が悪い)
怜子ちゃんが主人公を好きになったのって多分、「1番近くに居る若い男だったから」とかその程度の感覚で、でも付き合って行くうちにどんどん「好き!」が盛り上がって行ったんだと思うんですよね。ハタから見てたら錯覚って思えるかもしれないけど、本人にとってはちゃんとした「好き」で、主人公への気持ちに偽りは無くて。ただ、妊娠ていう「現実」が迫って来た時に、それを打破出来るほどのパワーは無かった。
そんな色々を含めて、怜子ちゃんが「怜子ちゃん」足りえるのはひとえに「19歳・処女(から脱処女へ)」であるせいなので、これからの経験次第で「思い出し絶叫」なんて絶対に言わない女になると思います。あのままの状態をキープする事は絶対出来ない。スレる。スレるよ!(何の恨みがあるのか)

  • 桐生麻美

「そりゃ不倫するよなあ」って、すごく納得させられるキャラ設定だと思いました。母性と女性が強いっつうか。
主人公と怜子ちゃんが上手く行ってセックスまでしようっていう段になっているのを知ってるのに、主人公の家に上がりこんでご飯作っちゃったり、成り行きで主人公と一緒に行く事になった葬式で「夫婦です」って名乗っちゃったり、そういういやらしさ(女としての)を持ってるのに、不倫相手の清算時の怪我を主人公に問い詰められた時は「ここで泣き言言ったら慰めてくれる?」って考えつつ笑って「転んだの」って言っちゃう、そういう土壇場での妙な物分りの良さが「ああ…」と思わされます。
本人が、「自分を甘やかしてくれる人を見つける才能があるの」て言ってて、その事に自覚があるのがまだ幸いかなあ。
それでも、落ち込んだ主人公と慰めセックスしようとしたり、別れの言葉の後もチラチラ工場を見に行っちゃってた、っていうエピソードがまた「ああ…」に拍車をかけるんですよね…!話ズレますけど、もしあそこに居たのが21歳の怜子ちゃんだとしたら、あの子は慰めセックスなんて絶対しませんよ…!(私の脳内で熟成させた怜子ちゃん像の話です)
実際問題、桐生みたいな人はリアルに居ると思うんですよね。でもそういう人は主人公のような存在には気づけないし、気づいていてもその時はもう別の女と上手いこといっちゃった後ですよ。怜子ちゃんと違って、ある程度分別ついた女は主人公タイプの男は離しませんよ。それでも桐生は多分ずっと主人公の事好きで近くに居続けて、酔った勢いとか心の隙間狙ってヤっちゃって結局不倫になったりするんですよ。何を言い切ってるんでしょうね私は。
作中での2人の対比ってちょこちょこあるんですけど、セックスした後の怜子ちゃんと桐生の態度(余裕度)の変化とか、赤ちゃんに対する2人の考え方の違い(ひたすら怖がってた怜子ちゃんと、自分達の子供を想像して「いいなあ」と和む桐生)も考えさせられますよね。あと、怜子ちゃんには別れるまで虹玉の事を話せなかった主人公が、最後に桐生に合宿の時の事を話すのも。
女の事となると長文を書く傾向があるのですが、それにしてもこれは酷いですね。かしこ。