「パンズ・ラビリンス」

パンズ・ラビリンス 通常版 [DVD]

ローズ・イン・タイドランド」と一緒に借りたやつ。
舞台は内戦時のスペイン。戦争で父を亡くした少女は、母と一緒に母の再婚相手でありお腹の子供(弟)の父親でもある政府軍の大尉の砦に身を寄せることに。しかし、大尉は森に潜むレジスタンス軍を駆逐しようとしている超絶独裁主義者で、自分の血を引く息子を残すことにしか興味が無く、外では日々人が死んでいく。そんな荒んだ環境の中、少女は妖精に導かれ、森の奥で牧神・パンに会い、「あなたは地底の王国の姫君(の生まれ変わり)だ」と告げられる。そしてパンは彼女に姫であることを証明し、痛みも苦しみも無い地底の王国に戻るため3つの試験を乗り越えろと迫る――といった感じのお話です。
冷血な大尉やその部下・大尉のもとで働きながらも密かにレジスタンス軍を支援しようとする協力者・あらぬ疑いをかけられ殺される農民・股から大量の出血をし流産や命の危機に迫られる母親・銃撃戦・捕らえられた者へ加えられる容赦ない拷問。そんな現実と平行して「古い木の根元に住んで木を弱らせている大きな蛙のお腹から鍵を取り戻す」・「壁にチョークで描いたドアから怪物の屋敷に忍び込み、気づかれないように剣を取って来る」といった少女の「試練」の模様が描かれます。ただ、牧神・パンを始めその「試練」に出てくる妖精や生き物達もほの暗くグロテスクで感情的で生臭く、美しいファンタジーには成り切れていません。
構造としては「ローズ・イン・タイドランド」と似ていますが、大きく違うのは、主人公の少女はこれを「ごっこ」としては認識していないだろう、という部分です。勿論、現実から脱するために「信じたい」と思っている部分は多分にあるでしょうけど。物凄く雑に言うと「変態の匂いがしない」ですかね!少女はいつでも一生懸命で、切実で、夢見がちで、「無垢なるもの」。好奇心に負けてうっかり約束を破って大変な目にあったりも嘘もついたりするけれど、それらはあくまでも「子供らしさ」の範囲内。まあそれも種類の違う変態と言えばそんな気はしますけど。過剰に夢を見るか、生々しさに魅入られるかっていう違いか。
私にとってこの映画は「辛い現実を空想で覆い隠そうとした夢見がちな少女の物語」というよりは、「意地の悪い妖精の暇つぶしに引っかかった気の毒な少女の物語」と解釈する方が落ち着きます。舞台を古代中世から近代世界に移した童話。ラストシーンに関しては、妖精の関わりのない完全な少女の内的世界だと思ってます。そのせいか、あんまり欝映画だとは感じなかったですね。
不満を言うと、拷問や人を殴ったり傷つけたりする描写自体はグロテスクではあるけど、人の死に対してはリアリティが薄い感じがする(パンパンて銃の音がしてフラっと崩れて終わり、みたいな)のと、弟が生まれるシーンではもうちょっと描写が欲しかったです。父子関係に強く拘って妊娠時から「男にしか用はない」態度を貫いていた大尉なのに、出産シーンでは何も触れられずにその後しばらくして「弟」っていう単語が出てきてやっと性別が分かるだけっていう。どうせ人でなしなんだから、母親ほったらかして大喜びするくらいの事はやってもいいのになあ。