「オルファクトグラム」

オルファクトグラム

姉を殺害した犯人に、事件現場で襲撃された片桐稔は、その後遺症から通常の“匂い”を失い、イヌ並みの嗅覚をもつことに……。まったく違う世界に戸惑いながらも、失踪したバンド仲間を、嗅覚を頼りに捜し求めてゆく。新たな能力を駆使することで、姉の仇を討てるのか?新感覚の大長編異次元ミステリー。

「匂い」って人に最も伝えにくい感覚じゃないかと思うのですが、それに中心を置いた作品を初めて読みました。表紙からして鼻ですよ!素敵!文庫の表紙も鼻にすればいいのに!
匂いの感覚を視覚で認識するという設定になっていて、変に文章をこねくり回したりしていないせいもあって思った以上に受け入れ易かったです。最初の方は主人公の視覚(嗅覚)世界がいまいちイメージ出来なくて「う〜ん…?」だったんですけど、読むうちに主人公が自分の能力をモノにしていくのと一緒に何度も何度もそれを理解させるための説明があって、半分くらい読む頃にはもう「匂い超見てえ…!」って思えるようになります。こないだ読んだ、同じ作者の『ダレカガナカニイル… (講談社文庫)』より遙かに興奮する。「そうなった理屈」みたいなものもずっと納得出来るものだったし。
一応ミステリの形になってるんですけど、作者が書いてて楽しかったのは絶対に嗅覚の描写やその理論づけとかの方だろうなあと思います。ミステリの部分は「すげえ鼻」を物語として使うためのもの、みたいな。もうちょっと(ほんとにもうちょっと)ミステリ部分のバランスを重くしてあればパーペキ(パーフェクト+完璧)だったと思いますが「すげえ鼻の話」としては十分面白いです。
あと「色で表現するセックス描写」っていうのを初めて見て、ちょっと受け止め方に苦しみました。

すでに充血しきった僕のペニスは山吹色の花びらの形状をした匂いをまき散らし(以下略

こ、これは面白いと思っちゃっていいの…か…しら…?っていう。
以下ネタバレ。

ミステリ部分の物足りなさなんですけど、一応犯人側からの視点を描いた章がちょこちょこ入れられてるものの、犯人の行動の意味というか裏付けぽいものはほとんどない(何で血を?とか、何で剃毛?とか)のと、なんか主人公があんまりお姉さんや友達に対しての感情みたいなものを強烈に持ってなさそうな感じがして、もうちょっと濃く書いてくれてもいいのになあっていう印象。友達、どうなるのかと思えば「殺しちゃったよ」だけで終わってるし。そんな事より鼻だぜ鼻!みたいな。いや、面白いけどね鼻!いいよね鼻!
あとすげえ小姑な事を言うと、生理来ないのに「3ヶ月にならないとわからないから」って数ヶ月病院行かないままセックスをなさってる(検査で出来たって発覚してからもガンガン)お嬢さんってどうなのー!職も無いのにおめでたワーイってなってる男ってどうなのー!事件の事があるのはわかるけど今後の生活の事とか一切考えて無さそうだったんですけどー!まあ結局鼻で食っていけるようになってますけどね!
ああ、こういうフィクションにまで「こいつの性格が気にくわない」とか「こいつの言動ってどうよ」みたいな事にいちいち突っかかる所をいい加減治したい。治らない。