「アヒルと鴨のコインロッカー」

アヒルと鴨のコインロッカー (ミステリ・フロンティア)

「一緒に本屋を襲わないか」大学入学のため引越してきた途端、悪魔めいた長身の美青年から書店強盗を持ち掛けられた僕。標的は、たった一冊の広辞苑――四散した断片が描き出す物語の全体像とは?

伊坂4冊目。今まで読んできた伊坂モノは、どんなに悪意に満ちていてもラストでそれがザザっと払拭されるというか、晴れ間が見えるような終わり方で、でもそれがある程度わかっていても描かれる「悪」はとても重くて、いつも内心「うう…うう…」と唸りながら読んでいたのですが、今回はそれに輪をかけて「今までのとは違う気配がする…」という感じが最後まで払拭出来ず、胃をキュンキュンさせながらの一気読みと相成りました。
大学に通うため実家を離れ1人暮しを始めた主人公視点からのストーリーと、その2年前を舞台にしたペットショップ店員の女性視点からのストーリーが交互に描かれ、ラストに向かって交差していく形式。主人公があまりに振りまわされすぎなのが良くない、みたいな評判もあるみたいですけど、作中でも書かれているとおり主人公は他の登場人物達の物語の単なる参加者にすぎないのでこの程度でいいんじゃないかなあと。それよりも動物虐待のシーンがきつかった。
以下ネタばれします。

何といっても一番理解できないのが琴美がかたくなに警察への連絡を拒否してるところなんですけど、あれは「自分の臆病さに驚き持て余している」が故なんですかね。脅迫電話までならともかく、路上で浚われかけても「警察ヤダ!」なのは…。本握り締めながら「悪い事言わないから通報してよー!もー!」ともんどりうちました。悪い予感へまっさかさまな様子に私の胃が悲鳴。
「警察に言っても信じてもらえない」「動いてもらえないだろう」というのは憶測ばっかで言い訳として飲み込み辛いし、「通報する」=「ものすごい事が自分の身におきたと実感してしまう」=「それを受け止められない・受け止めるのが怖い」というのはわかるけどさすがにここまでいったら周りの人間がプッシュしようぜそれは…!っていう。最後にしても、事前に警察にちょっとでも事情話しておけば交番での交渉もスムーズだったろうし。
「得られるだろう」と思ってた最後の安堵が若干肩透かしになってしまって、今までの作品のように諸手をあげて「好き!」「よかった!」とは言えなくてもやもやもや。いや、あそこでほんとに殺しちゃってたら因果応報でドルジが不幸になってしまったかもしれないっていうのはわかるし、そのために作中では何度もブータンの宗教観や文化みたいなものが描かれてたんでしょうけど、私は、そんなあるか無いかもわかんない来世なんてー!そんな世の中じゃー!ポイズンー!と地団駄踏みたくなる矮小な人間なんだものー!
あと気になったのは、「神様を閉じ込める」儀式は、ラストでやるよりむしろ本屋に押し入る前にやるべき(神様に見せないために)だったんじゃ…?と。

伊坂作品は登場人物がリンクしてるのが多いですが、これには「陽気なギャング」のキャラがチョロっと出てましたね。「陽気な〜」は映画化するんでしたっけ。