青木るえか

主婦は踊る (角川文庫)

だ、駄目だこの人。
タイトルのとおり主婦エッセイなんですが、お手軽レシピとか生活の知恵とか家族像とか人間関係の悩ましさとかそういうものが一切無くて、ひたすら駄目。
「駄目な私><」でもなくて「私って駄目ですよねー(笑」でもなくて「駄目だよチキショー」でもなくて「駄目だ…_| ̄|○」でもなくて、淡々と駄目。
途中まで、「こ、この人はギリギリセーフなのかアウトなのかどっちなんだ?」という目で見ていたんですけど、1/3辺りで「ああ、もうこれはアウトですね」となりました。だってすごいもの!部屋の掃除を一切しないくらいならともかく、放置に放置を重ねた缶詰が爆発したり、引っ越した後に入居した人からあまりの汚さ(畳から虫が)に十万単位の清掃代金を要求されたり、義父の葬儀にカバンが無くて紙袋で行ったり、しかもその葬儀の最中パンストがちゃんと履けなかったからといって太ももあたりで止めた状態で「しずしず歩くから大丈夫」と言ってのけちゃったり、旦那のシャツは2週間くらい平気で洗わないとか、何かもう確実に一線を越えています。
で、旦那さんも旦那さんで、青木さんを受け止めて自然に共存しているばかりか「ハンドタオルを忘れたから」という理由で猫用のペットシートで顔を拭いたりしていらっしゃるので、ああもう追いつけない。
そんな青木さんはさぞかし厚顔無恥な感じの人なのかなあと思いきや、これがものすごく小心で、魚屋の兄さんに「これください」すら言えない、美容師との会話に緊張する、友達は数人、妄想が趣味、男にモテたことがない、って、うわあシンパシー。
私が恐れているものの一つに「社宅」があって、きっとそこでは会社の人間関係が家にまで影響してて、近所付き合いとか普通の家の比にならないくらいギッチギチで、週に3回は奥様方と歓談しなくちゃいけなくて、ちょっとでも浮いた事したら吊るし上げとかにあって、そう、そうだよ小学校の頃の「帰りの会」のあの感じだよ…!とずっと住んだ事もない「社宅」を想像して胃を痛めていたのですが、この青木るえかさんが社宅住まいで、「(季節ごとにある)奥様達の食事会が嫌いだ」なんて言いながらもひたすら微笑んでいるだけでその場を乗り切り、引越しの挨拶もロクにせず、ゴーイングマイウェイぶりを突き進んでいる様を見ていると、「ああ、もう私大丈夫なんじゃね?」と思えてきました。しがらみなんて振り切って良くね?みたいな。いや、多分というか確実に駄目なんでしょうけど。物凄く優しく背中を押してくれている気がします。そんな甘美な後押しに身を任せてしまいたい、もうどうにでもして!という方や、もしくは「私はそこまで落ちたくない!」と自分を奮い立たせるスパイスを求めているような方にオススメなんじゃないかと思います。
個人的には「主婦は踊る」の方が好きです。後半、OSK(日本歌劇団)のファンになった時の仔細について書かれてあるのですが、どのようにして心を奪われたか、どのように自分を見失っていったかが延々と綴られていて、「何かが好きすぎて理性がブっ飛んでる様」を見るのが好きな私のツボでした。